前立腺肥大症

「前立腺」という名前は、割とお聞きになると思いますが、それが体のどこにあるのか、どんな働きをしているのか知っている方は少ないのではないでしょうか?
「前立腺がん」や「前立腺肥大症」という病名も、最近はテレビや新聞からもよく聞こえてきますね。
そして、身近な方でもこの病気でお困りの方がいらっしゃるかもしれません。
では、おおくの男性にとって、知っているようで知らない前立腺について、少しお話いたします。

蔦

前立腺って?

前立腺は男性だけにある臓器で、生殖器の1つです。
前立腺がなくても生きていくことはできますが、生殖活動のためにはなくてはならないものです。
しかし、その働きやしくみにはまだ不明な部分も多いです。

前立腺は、男性の膀胱直下にあって、重さは成人で15~20g、大きさは3cm程度の臓器です。
前立腺をりんごの実に例えてご説明いたします。
芯をくり抜いたりんごの実を想像してください。
くり抜いた芯の部分を尿が通って出てゆく尿道、りんごの実が前立腺とお考えください。
前立腺の外側はしっかりとした被膜(リンゴの皮)に包まれており、膜の内側には前立腺液を分泌する腺などが存在します。
さらに、前立腺の内部は尿道の周囲にある内腺と、その周りにある外腺に分かれています。

前立腺の病気といえば、前立腺がんと前立腺肥大症が最も知られていますが、前立腺肥大症は内腺に発生し、前立腺がんは外腺に多く発生するものなのです。
前立腺は前立腺液を分泌し、精液の一部をつくる働きがあります。
この前立腺液は精子に栄養を与え、精子を保護する役割を果たしています。
また、前立腺は膀胱の真下にあることから、膀胱出口の開閉に関わっています。

精巣で造られた精子は射精管を通って尿道に分泌されますが、その時に前立腺から分泌された精漿と混ざり合って精液となります。

では、その前立腺の病気のうち、前立腺がんと前立腺肥大症についてお話ししましょう。

その前に、とても大切なことをご理解ください。
前立腺がんと前立腺肥大症は名前や症状が似ているため、前立腺肥大症が悪化すると前立腺がんに進行すると考えている方がとても多いのですが、そのようなことはありません。
前立腺がんと前立腺肥大症は上記のように発症部位もメカニズムも異なります。
全く別の病気なのです。

ただし、前立腺肥大症の方に、同時に前立腺がんが存在することはありますので注意が必要です。

では前立腺肥大症について、詳しくみてゆきましょう。

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前立腺肥大

前立腺肥大

簡単にいえば、前立腺が年齢とともに大きくなる状態を前立腺肥大といい、その結果、さまざまな症状がでてきたら前立腺肥大症という病名になります。

つまり、大きくても症状がなければ病気ではないということです。

実際には40歳代から肥大が始まるといわれています。

高齢になるほど患者数は増え、80歳までには80%の人が前立腺肥大症になるといわれています。
年齢と共に前立腺が肥大するはっきりとした原因はわかっていません。
ただ、加齢と性ホルモンが何らかの影響を及ぼしていることは確かなようです。

前立腺肥大症が50歳以降から増え始め、年齢が高くなるにつれて発症する人が多くなっていくことから、加齢が関与していることは確実です。

また思春期前に事故などで精巣を失った男性は年をとっても前立腺肥大にならないことがわかっており、性ホルモンも何らかの影響を与えているのではないかと考えられています。

では、実際の症状とはどんなものでしょうか?身に覚えがありますか?

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前立腺肥大の症状

排尿後、まだ尿が残っている感じがする(残尿感)

 トイレが近い(頻尿)

 尿が途中で途切れる(尿線途絶)

 急に、尿意をもよおし、もれそうで我慢できない(尿意切迫感)

 尿の勢いが弱い(尿勢低下)

 おなかに力を入れないと尿が出ない(腹圧排尿)

 夜中に何度もトイレに起きる(夜間頻尿)

上記のようなことに心当たりがある方は前立腺肥大症の可能性があります

最も典型的な症状は、排尿しようとしても、尿線が細くなったことで排尿までの時間がかかり、さらに進むと尿がまったく出なくなります。
これらの症状は飲酒、自転車やオートバイに乗る、便秘、ある種の胃炎や胃潰瘍の薬などで悪化することも特徴の1つです。

専門的には前立腺肥大の症状は第1期(膀胱刺激期)、第2期(残尿発生期)、第3期(慢性尿閉塞期)の3期に分けられます。

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第1期(膀胱刺激期)

  1. 尿回数が増加。特に夜間に3回以上
  2. 尿が間に合わない感じ(尿意切迫)
  3. トイレにたどり着く前に尿が漏れてしまう(切迫性尿失禁)
  4. 軽度の排尿困難
  5. トイレに行ってもすぐに尿がでない(遷延性排尿)
  6. 尿をしている時間が長い(苒延性排尿)
などがみられます。
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第2期(残尿発生期)

  1. お腹に力を入れないと尿が出ない
  2. 残尿(50~100mL)
  3. 昼間の頻尿
  4. 尿閉突然出現(お酒を飲んだあと、長時間座ったあと、極度に緊張したときに現れやすい)
などがみられます。
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第3期(慢性尿閉塞期)

  1. 膀胱の収縮力が低下し、排尿、尿意を催すことが低下する
  2. 尿がだらだらもれる(溢流性尿失禁)
などがみられます。
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前立腺肥大の診断

前立腺肥大の診断

排尿障害などで日常生活に支障がある場合、

まず泌尿器科専門医もしくはかかりつけの医師に相談しましょう。

一般的に初診時に行われるのは問診です。どんな症状でお困りなのかを具体的に伝えましょう。

国際前立腺症状スコア(IPSS)という症状の程度を調べる質問票を使って、症状とその程度を点数化する方法があります。


この問診票の合計点数で0~7点は軽症、8~19点が中等症、20~35点が重症と判定されます。

ただし、軽症と判定された場合でも、1項目でも4点以上の項目があれば精密検査が必要です。

自覚症状の程度がわかったあとは、前立腺や膀胱、尿道の状態を調べるための検査を行うことがあります。

排尿障害があるからといって、必ずしも前立腺肥大症とは限りませんから、他の病気の可能性も含めて確認するための検査です。


初診で行う検査は、腹部エコー検査、血液検査、尿検査などです。これらは比較的簡単な検査です。不安がらずに早めに医療機関を受診しましょう。

精密検査としては(1)直腸内指診、(2)超音波検査、(3)腫瘍マーカー検査、(4)尿流量測定、(5)残尿測定、(6)内視鏡検査などの検査が実施され、確定診断されます。
この他、腎臓の機能や形態と尿管の形態を見る造影剤を使ったレントゲン検査なども行われます。

ここで大切なのは、検査で大きな前立腺肥大が見つかっても全く症状がない方もいれば、小さくてもひどい症状で困っている方もおられます。
結局、ご自身がどれだけ悩んでおられるのか、困っておられるのかが、治療開始のきっかけになるのです。

そして最も重要なことは、前立腺がんを見逃さないことです。
50歳を過ぎて排尿困難、尿線の異常などの排尿異常が少しでも感じられたら、
すぐに泌尿器科専門医、またはかかりつけの医師に相談することが大切です。
「歳のせい」とか、「前立腺肥大のせい」など勝手に判断することが、前立腺がんなどの悪性疾患の早期発見を遅らせます。「前立腺がん」の項目をご覧ください。

前立腺がんは、早期発見すれば90%は治るがんなのです。

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国際前立腺症状スコア(IPSS)

国際前立腺症状スコア(IPSS)

前立腺肥大の治療

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薬物療法

前立腺肥大症や過活動膀胱の治療は、それほど重症でなければ、まず薬物療法を行って、それでも症状の改善が思うように得られない場合に限って手術やその他の治療法を考えるのが一般的です。
薬の効果は症状が軽いほど高く、治療せずに放置して悪化すると、薬物療法では症状が改善されない場合もあります。
また、薬物療法は症状を軽減させる対症療法です。
治療を始める前に、医師からよく説明を受け、病気と今後の治療について十分に理解をしておきましょう。
前立腺肥大症の薬物療法には、尿道や膀胱の出口を広げておしっこを出やすくする「α1受容体遮断薬」、前立腺を直接小さくさせる「抗男性ホルモン薬」、その他に「漢方薬、植物製剤」などがあります。
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手術療法

内服で症状が改善しない、もしくは長い期間内服治療を続けていたが症状が悪化してきた、といった方は手術による治療を検討します。
もっとも一般的な手術は、内視鏡手術(経尿道的手術)です。
おなかを切除せず、尿道から尿道鏡とよばれる内視鏡を挿入し肥大した前立腺を切除する方法です。
模式的にりんごの実を使ってご説明します。
芯をくりぬいたりんごの実を前立腺に、くり抜いた芯の部分を尿道に例えてお考えください。
そのくり抜いた芯の部分からスプーン(実際には電気メス)でリンゴの皮を破らないように少しずつ白いりんごの実を中からかき出すイメージです。
現在は、電気メスの代わりに、前立腺を蒸散(溶かすような感じです)させる、レーザーを使う方法など様々な方法があります。
また、大きな前立腺肥大は開腹手術をすることがあります。
その他には前立腺肥大で狭くなった尿道にストローのようなもの(尿道ステント)を入れる方法などがあります。

現在、当クリニックでは手術は行っておりません。
私も、泌尿器科全般の手術に長年携わっており、この手術も得意としております。
当クリニック治療中に手術が必要になった場合、手術治療実績の高い病院をご紹介させていただきます。
その後は、当院にて細やかなケアを行ってゆきます。
将来的には、近隣の医療機関と連携し菊池で手術治療を行えるよう準備中です。
詳細は追って、当院ホームページでお知らせいたします。
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最後に・・・

「勢いがない」、「とにかく近い」、「時間がかかる」など、ご高齢の方にとっては当たり前のように感じておられるかもしれない症状。
しかしそれは、「年のせい」ではなく、主には「前立腺のせい」なのです。
多くはお薬で改善します。
まずは、泌尿器科専門医もしくはかかりつけの医師にご相談ください。